仕入れも、資材も、光熱費も上がった。人件費も上げざるを得なかった。それでも自社の価格は、三年前のまま据え置いている——中小企業の現場で、これは珍しいことではありません。
上げたくないわけではなく、上げる根拠を組み立てる時間がないというのが実情です。どの品目がいくら上がったのか、それが自社のどの商品にどれだけ効いているのか。調べようとすれば数日仕事になり、その数日が取れないまま次の月が来ます。
そして厄介なのは、この状態を続けると、あるとき一気に大きく上げざるを得なくなることです。小さく刻めば受け入れられたはずの改定が、まとめて出すと取引そのものを揺らします。
この記事では、Anthropic社の公式AIコーディングツール Claude Code を使って、価格改定の根拠を整理し、お取引先へお伝えする文面の下書きまでを準備する手順を、非エンジニアの方向けに整理します。
気持ちの問題ではありません。作業の側に、着手を妨げる構造があります。
同じ時期に仕入れていても、上がった品目と据え置きの品目が混ざっています。全体で何パーセント上がったのかを出すには、品目ごとの数量と単価を掛け戻す必要があり、これが手作業では重い。
材料Aが二割上がったとして、それが商品Xの原価に占める割合は一割かもしれないし、六割かもしれません。構成比を通さないと、改定すべき幅が出てきません。
根拠が出ても、それをお取引先に伝わる言葉にする工程が残ります。ここで止まり、根拠だけが手元に残って改定が先送りになるというのが、いちばん多い止まり方です。
この三つは、いずれも判断ではなく作業です。作業だから、渡せます。
ここを曖昧にすると、出てきた数字をどこまで信じてよいのか分からなくなります。先に線を引きます。
| 工程 | 担当 | 理由 |
|---|---|---|
| 仕入実績の読み取り・書き起こし | 機械 | 手を動かすだけの作業 |
| 品目ごとの増減率の算出 | 機械 | 件数が多く見落としが起きやすい計算 |
| 商品別の原価構成への割り戻し | 機械 | 型を渡せば揺れずに実行できる |
| 改定幅の候補と影響額の試算 | 機械 | 条件を変えた繰り返し計算 |
| ご案内文の下書き作成 | 機械 | 材料がそろえば書ける文章作業 |
| 改定幅と実施時期の決定 | 人 | 取引関係と経営判断の問題 |
| お取引先への提示と交渉 | 人 | 責任と関係性が伴う判断 |
要点は下の二行です。「原価が一割上がったから一割上げる」で済む取引先ばかりではありません。長い付き合いの一社を今回は据え置くという判断は、事情を知っている人にしか下せません。機械が出すのは材料であって、結論ではありません。
特別な準備は要りません。手元に仕入の実績があれば始められます。
「前回改定した月」と「直近の月」のように、二つの時点を先に固定します。 ここが曖昧なまま集計を始めると、途中で範囲が動いて数字が合わなくなります。データの控えは必ず別に残してください。
率だけを見ると、単価の安い品目の大きな上昇に引っ張られます。 逆に額だけを見ると、数量の多い品目しか目に入りません。率と額を並べて出させ、金額インパクトの大きい上位から順に並べ替えます。
自社の商品が、どの材料をどれだけ使っているかの表を渡します。そのうえで、ステップ2で出た増減を商品側へ割り戻させます。 ここで初めて「商品Xは原価が七パーセント上がっている」という、改定幅の根拠になる数字が出ます。
構成表が手元にない場合は、主力の三品目だけ手で書き出すところから始めて構いません。全品目そろえようとすると、また着手が遅れます。
一案だけ出させても比べられません。「据え置き」「原価上昇分のみ転嫁」「原価上昇分+一定幅」の三案のように、幅の異なる案を並べさせます。各案について、年間の売上影響額と粗利影響額を出させると、社内で議論できる形になります。
ここで大事なのは、据え置き案も必ず並べることです。上げない選択の損失額が見えて、初めて判断になります。
改定幅が決まったら、お取引先へお伝えする文面の下書きをつくらせます。渡す材料は、改定の対象、改定後の価格、実施時期、そして上がった理由の要約です。
下書きは必ず人が手を入れてください。数字の確認はもちろん、謝意と今後の姿勢の部分は自社の言葉にする必要があります。ここを機械の言い回しのまま出すと、伝わり方が薄くなります。
同じ材料を渡しても、頼み方で出てくるものが変わります。
「分析して」ではなく、「品目名・数量・単価・金額・前回単価・増減率・増減額の七項目を、この順で表にして」と指定します。項目を任せると、都合のよい切り口で丸められます。
前回単価が不明な品目は、空欄ではなく『前回データなし』と文字で残させます。 推測値が混ざった瞬間、その表は根拠資料として使えなくなります。
出てきた表の合計金額を、元の仕入実績の合計と突き合わせてください。 一致しなければ、どこかで行が落ちています。この確認を飛ばした表は、社内でも取引先でも通りません。
同じところで止まる方が多いので、先に並べておきます。
主力の三品目から始めれば十分です。完璧な表より、動き出した改定のほうが利益を守ります。
原価が一割上がったからといって、価格を一割上げれば粗利が守れるとは限りません。粗利額と粗利率のどちらを守るのかを、先に決めてください。
据え置いた期間が長いほど、一度の改定幅は大きくなります。取引を揺らさないために、二段階に分けて実施時期をずらす案も併せて試算しておくと、選択肢が増えます。
お取引先にも、社内での手続きがあります。実施の一定期間前にお伝えするという前提で逆算し、根拠の整理から始める日を決めてください。
次の改定は必ず来ます。使ったデータの範囲、計算の型、決めた理由を1枚に残しておくと、次回は集計から始められます。ここを残すかどうかで、二回目以降の負担がまったく変わります。
| 業種 | 効きどころ |
|---|---|
| 製造業 | 材料費と外注加工費の上昇を、製品別の原価構成に割り戻す |
| 建設・工務店 | 資材と労務の上昇を、工種ごとの歩掛に反映して見積単価を更新 |
| 飲食店 | 食材の上昇を、メニュー別の原価率に割り戻して改定対象を絞る |
| 小売・通販 | 仕入単価と送料の上昇を、商品カテゴリ別に整理して改定幅を分ける |
| 美容室・治療院 | 材料費と光熱費の上昇を、施術メニュー別の所要時間で按分する |
| 士業・コンサル | 作業時間の実績を集計し、業務区分ごとの報酬水準を見直す |
いずれも共通するのは、上がったコストを、売る単位まで割り戻すという一点です。ここを通すかどうかで、改定の説明力が変わります。
写真かスキャンで画像にすれば読み取らせられます。枚数が多い場合は、金額の大きい取引先から順に着手してください。全部そろってから始める必要はありません。
できます。ただし、取引先ごとの一覧と、全体の一覧を分けて出させてください。混ぜると、平均に埋もれて個別の事情が見えなくなります。改定を見送る先がある場合も、この分け方が前提になります。
品目数にもよりますが、集計と割り戻しに数日かけていた作業が、材料をそろえたあとは半日程度まで縮む例が多いところです。短縮の大部分は、集計そのものよりもやり直しが減ることから生まれます。
社内の取り扱いルールに従ってください。判断に迷う場合は、取引先名を伏せて品目と金額だけを渡す方法があります。増減率と割り戻しの計算には、取引先名は不要です。
価格改定の準備について、この記事でお伝えしたことを整理します。
上がったコストの記録は、すでに手元にあります。集める手間はもう払い終わっています。あとは、売る単位まで割り戻すだけです。
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